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日本の和歌には、季節を感じさせるものが多く存在します。


その中でも、多くの歌人たちが愛した「」。
私自身、鮮やかに色づく紅葉などを見ると、心穏やかになれたりします。


この記事では、著名な歌人たちの残した有名な和歌から「秋」の醍醐味を見てみましょう。
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その1.湯原王の物悲しい「秋」の和歌


夕月夜 心もしのみ 白露の 置くこの庭に 蟋蟀(こおろぎ)鳴くも

作者は、万葉集の代表的な歌人、湯原王(ゆはらのおおきみ)です。
天智天皇の孫で、奈良時代の皇族、歌人という概略くらいしか伝わっていない謎多き人でもあります。


そんな湯原王の詠んだ秋の和歌を現代語に直してみます。

月が浮かぶ夕暮れ、心がうち萎れるほどに、
白露の降りた庭の草木の陰で蟋蟀が鳴いているよ


秋の夕暮れ時に、切ないほど静かに響く虫の音。
さすがは、優美で情緒豊かな和歌を詠むことで有名な湯原王ですね。

※参照:月を詠んだ和歌で有名な作品を5つご紹介。

その2.猿丸大夫の恋しさを感じさせる「秋」の和歌


奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき

作者は、三十六歌仙の一人、猿丸大夫(さるまるのたいふ)。

この猿丸大夫ですが、生没年不明、詳しい人物像を伝える書物などもなく、最早、伝説の人と言ってもいい人物です。諸説には、柿本人麻呂と同一人物ではないか、というものまであり、和歌の知名度とは反対に、とてもミステリアスな人物なのです。


その一方で、こちらの「奥山に~」の和歌は、「古今和歌集」に収録されており、百人一首にも選ばれている有名な秋の和歌です。


それでは早速、現代風に直して歌の意味をみてみましょう。

人里離れた奥深い山で、一面に散り敷き詰められた紅葉を踏み分けながら、
恋しいと鳴く牡鹿の声を聞いているときこそ、秋の物悲しさがひとしお身にしみるものだ


なんとも秋の閑静とした雰囲気を感じさせる和歌です。

その3.在原業平の鮮やかな「秋」の和歌


千早(ちはや)ぶる 神代(かみよ)もきかず 龍田川(たつたがは)
からくれなゐに 水くくるとは


作者は、稀代のプレーボーイ在原業平です。
その素行はさて置き、六歌仙であり、三十六歌仙でもある在原業平の和歌は、「古今和歌集」「後撰和歌集」「拾遺和歌集」「新古今和歌集」など、数多くの勅撰集に残されるほど。


ご紹介する「千早ぶる〜」も、古今集に収録されている歌ですが、百人一首に選ばれた和歌の中でもかなり有名な歌の一つです。


現代語に直すと、こんな感じになります。

遥か昔、不思議なことが当たり前のようにあった
神代の世であっても、こんなことは聞いたことはありません。
水面に一面の紅葉が浮かび、龍田川を鮮やかな紅色に絞り染めるなどとは


鮮やかな色彩を見せる「秋」が、目に浮かぶような和歌です。

因みにこの和歌は、屏風の絵に添える「屏風歌」を、昔付き合っていた女性に頼まれて詠んだ和歌だといわれています。

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その4.貞信公が詠んだ美しい「秋」への賛歌


小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ

作者は、貞信公こと藤原忠平です。
聡明で人柄も良く、ときの天皇たちに寵愛された人物で、藤原家の栄達の礎を築きました。


実は、こちらの「小倉山〜」の和歌は、藤原忠平が宇多上皇のお伴で小倉山の紅葉を見に行ったときに、紅葉の美しさに感動した宇多上皇が、我が子を伴ってまた来たいという呟きを漏らしたときに詠った和歌なのだとか。


小倉山よ、もしもあなたに人の心を理解することができるのなら、
再び上皇様がおいでになるそのときまで、どうかその美しさを失わず待っていてください


処世術に長けた人だったのでは、と思ってしまうのは私の心が汚れているせいでしょうか。


なお、こちらの貞信公の「小倉山〜」の和歌は、「拾遺和歌集」に収録されており、百人一首にも選ばれた有名な作品です。聞き覚えがある方もおられるかもしれませんね。

その5.素性法師の恋焦がれる「秋」の和歌


今来むと 言ひしばかりに 長月(ながつき)の
有明(ありあけ)の月を 待ち出(い)でつるかな


作者は、三十六歌仙の一人、素性法師(そせいほうし)です。

桓武天皇の曾孫で、六歌仙・三十六歌仙でもある遍昭の子という、高貴な血筋でありながら、父同様、若くして出家した素性法師。けれど、その類稀なる和歌の腕前を買われ、宇多上皇や醍醐天皇に仕えた人物です。


そんな素性法師が詠んだ秋の和歌、「今来むと〜」は、「古今和歌集」に収録され、百人一首にも選ばれている有名な和歌です。


それでは、現代風に直してみたいと思います。

今すぐに行くとあなたが言った言葉を信じて
長月(9月)の長い夜を眠らずいたら、夜明けに昇る有明の月を待ってしまいました


意味から察するに、すっぽかされたんですかね。
恋しい人に恋い焦がれて、長い秋の夜を待ち続けたという和歌は、秋の物悲しさと同時に、切ない心情を感じさせます。


実は、こちらの和歌は女性目線です。当時、男性が女性目線の和歌を詠むことが流行ったそうで、目線を変えた和歌はかなり多く残されているのです。

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この記事のまとめ


秋を感じさせる有名な和歌を5つ紹介しました。

どの和歌も、風情を感じさせる美しい「秋」を感じさせます。
詠まれている有名な和歌から、過去の歌人たちが「秋」というものをどれだけ愛していたかが伝わってきますよね。


そこに込められる想いはそれぞれですが、「秋」という季節を心から愉しんでいなければ、ここまで美しい和歌は出来上がらないでしょう。

古の歌人たちの目や耳は勿論、五感すべてを使って感じ取った「秋」の魅力を、和歌を通して楽しんでみてはいかがでしょうか。


なお、以下の記事では冬をテーマにした和歌を解説しているので、興味があれば一度ご覧になってみて下さいね。

※参照:冬を詠んだ有名な和歌を5つご紹介。