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和歌の魅力といえば、聡明さを感じさせる美しい言葉や、繊細で情緒豊かな感性を感じさせるところでしょうか。私自身、そんな日本の和歌を知るたび、日本人で良かったなぁとしみじみ感じてしまったりします。

特に有名な和歌には、季節を感じさせるものが多くあります。

そこで今回は、夏をテーマにした有名な和歌をいくつかご紹介したいと思います。

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その1.夏の清々しい光景を表した持統天皇の作品


春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山

作者は、第41代天皇である持統天皇です。

持統天皇の和歌は、日本最古の和歌集である「万葉集」にも多く載せられているので、万葉集の歌人としてかなり有名な方です。

特に、紹介した「春すぎて〜」の歌は、百人一首にも選ばれている有名な和歌なので、もしかしたら耳にしたことがあるかもしれませんね。


そんな持統天皇の詠んだ和歌の意味を、現代語に訳してみます。

もう春は過ぎて夏が来たようですね。夏になると白い衣を干して乾かすという天の香具山に、あんなに白い着物が干されているのですから

さすが女性の天皇である持統天皇。
女性らしく柔らかい語調と、穏やかな夏の雰囲気を感じさせてくれる素敵な和歌です。

その2.短い夏の夜を、詠った清原深養父の作品


夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ

作者は、清原深養父(きよはらの ふかやぶ)。
清少納言のお父さんのお祖父さんです。

彼の和歌は、平安時代前期の勅撰和歌集である「古今和歌集」などで見ることができます。
因みに、こちらの和歌は、百人一首にも選ばれた有名な歌でもあります。


こちらの和歌の意味を、現代語訳に直してみたいと思います。

夏の夜は短いもので、まだ宵の口だと思っていても、すぐに夜が明けてしまう。見えた月もすぐに消えてしまったが、雲のどこに月は隠れたのだろうか

琴の名手でもあったという 清原深養父。
夏の夜を詠ったとても風情のある和歌ですよね。

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その3.夏の風物であるホトトギスと、有明の月を組み込むと?


ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残るたれ

こちらの和歌の作者は、後徳大寺左大臣、本名を藤原実定といいます。

因みに「後徳大寺左大臣」というのは、別にペンネームではありません。

官職は左大臣、そして徳大寺家の当主ということで、「徳大寺左大臣」と呼ばれるところ、祖父も徳大寺左大臣だったことから、後徳大寺左大臣と呼ばれるようになったのだとか。


そんな後徳大寺左大臣の和歌であり、百人一首でも有名な歌を現代語訳にしてみます。

ホトトギスが鳴いていたので、そちらの方を眺めてみたが、そこにホトトギスの姿はなく、ただ空に有明の月だけが残っていた


ホトトギスは、初夏から秋まで日本にいますが、涼しくなってくると空を渡っていきます。
そのため、夏の風物の鳥として有名なのです。

この和歌を詠んだ後徳大寺左大臣は、とても文才に優れた人だったのだそうです。
また、ホトトギスの声を聴くことはとても風流なことだという当時の流行を踏まえると、後徳大寺左大臣はとても雅な人だったのかもしれませんね。

※参照:月を詠んだ和歌で有名な作品を5つご紹介。

その4.伊勢物語から、長い夏の日に沈んだ想いを表す作品


暮れがたき 夏の日ぐらし ながむれば そのこととなく 物ぞ悲しき

こちらは、伊勢物語に収録されている和歌の一つです。


伊勢物語といえば、作者不明でありながら当時の話題作となったことで有名ですが、登場する男性の主人公が、日本史を代表するプレーボーイの在原業平だとされていることでも有名です。


そんな伊勢物語の中に収録された和歌の一つがこちら。
それでは、現代語に直してみましょう。

日が長くなかなか暮れない夏の日。物思いに耽り、ぼんやりと眺めていると、無性にあらゆることが悲しく感じてくるものだ


この和歌は、伊勢物語の主人公の男を想って死んでしまった女性の存在を男が聞いた後に詠んだ和歌です。女性の存在も、その想いも知らなかった男が急いで女性の元へ駆けつけたのは、女性が既に亡くなった後。

そのことを思い出しては、物思いに沈んでいく男の心情が表されています。

その5.夏のイベント、七夕伝説の彦星になぞらえた作品


彦星に 恋はまさりぬ 天の河 へだつる関を 今はやめてよ

こちらも伊勢物語に収録されている、夏をテーマにした有名な和歌です。


伊勢物語の主人公の男が、同じ宮中で仕えている女性に対して詠んだ和歌でもあります。
ストーリ上の設定としては、同じ宮中で仕えているにもかかわらず、男は女性になかなか会うことができません。

そんな中、やっと仕切り越しに会うことが許されます。


男は、どんなことを伝えていたのか、現代語に訳してみますね。

一年一夜しか会えない彦星の想いに勝る私の想い。どうか今は、天の川を堰き止める関のような仕切りを取り払って欲しい

仕切り越しの対面をしたけれど、余計に悲しさや切なさが募ってきてしまったことで、男は仕切りなどなくして会いたいと伝えています。

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この記事のまとめ


夏をテーマにした有名な和歌を5つご紹介しました。


最初の三つの和歌は、百人一首の和歌を、そして後の二つは伊勢物語からご紹介してみました。
百人一首も伊勢物語も、学校などの授業で扱われることが多く、習うことが多い和歌です。


風流な嗜みとして、こちらの和歌を覚えておくと、ちょっとした風流人の仲間入りもできるかもしれません。
また、夏の和歌を知ることで、夏の雅な楽しみ方もできるのではないでしょうか。



なお、以下の記事では「和歌、俳句、短歌、川柳の違い」について解説しているので、興味があれば一度ご覧になってみて下さいね。

※参照:和歌、俳句、短歌、川柳の違いをわかりやすく解説!