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四季折々の風情ある情景を詠った和歌には、過去の歌人たちの様々な想いが込められています。
特に「春」という季節は、現代の日本人にとっても特別に感じられたりするものですよね。


そこで今回は、春をテーマにした有名な和歌を5つご紹介したいと思います。
春の和歌を通し、当時の雅な歌人たちの想い感じてみてください。
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その1.「春の憂い」と「女の憂い」を詠んだ小野小町の和歌


花の色は 移りにけりな いたづらに 我身世に振る ながめせしまに


作者は、あの有名な小野小町です。絶世の美女で、六歌仙、三十六歌仙に選ばれる素晴らしい歌人だったという他は、謎の多い女性です。

そんな小野小町の詠んだ春の和歌を、現代風に直してみます。


春の長雨が降っている間に、
あの咲き誇っていた花の色も褪せてしまいました。
そんな花と同じく、私の容貌も衰え、褪せてしまいましたよ



絶世の美女として持て囃された彼女ですが、人間である以上、誰しも必ず老いていくものです。


なんとも女性らしい悩みと、憂いを感じる和歌でしょうか。
過去の栄華を思い返し、物思いのため息をついている小野小町の姿が目に浮かぶようですね。

その2.光孝天皇の純朴な想いを表した「春」の和歌


君がため 春の野にいでて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ


作者は、五十五歳で天皇になったという光孝天皇(こうこうてんのう)です。
在位期間は、四年と短いものでしたが、優れた文化人でもありながら、質素を好む素朴な人柄。
多くの臣民に愛された、とても人徳のある天皇だったようです。


それでは、そんな光孝天皇の詠んだ和歌の意味を、現代語に訳してみましょう。


あなたのためにと、春の野に出て若菜を摘む私の袖には、
春だというのに雪が降りかかります



光孝天皇は、即位した後も、野花や野草を摘みに行ってしまうような天皇だったそうです。


因みに、「若菜」とは、春の七草などの薬草を指すのだとか。
雪が降る中でも、誰かの身体を労わるために野に出ちゃう光孝天皇。
純朴とした優しい想いが表れているような和歌ですね。

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その3.紀友則の詠んだ柔らかな「春」の和歌


久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ


紀貫之の従弟、または甥だという紀友則が詠んだ和歌です。
三十六歌仙の一人であり、「古今和歌集」の撰者でもありました。
ただ、完成する前に紀友則は亡くなってしまったのだそうです。


そんな紀友則の和歌の意味を読み解いてみましょう。


日の光が長閑に降り注ぐ春の日だというのに、
どうして桜の花は忙しく、急くように散ってしまうのだろうか



歌人としては有名人だった紀友則ですが、出世欲などはあまりなかったようです。


長閑な春の日の情景が、目に浮かぶような和歌を詠んだ紀友則。
和歌の持つ柔らかな雰囲気が、とても穏やかな人柄を感じさせてくれますよね。

その4.変わらない「春」を引き合いにした紀貫之の和歌


人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける


作者は、日本史を代表する有名な歌人、紀貫之です。
「古今和歌集」の撰者であり、三十六歌仙の一人。
六歌仙を選んだ人物としても有名ですね。


それでは、そんな紀貫之の詠んだ和歌の意味を、現代語に直してみたいと思います。


さて、あなたの方はどうなのでしょう。
けれども、昔なじみのこの地の梅の花だけは、
昔のまま変わらない香りで咲き誇っていますね



はっきり言って、この和歌だけでは何の話だか分かりませんよね。

実は、久方ぶりに訪れた宿の主に、「随分とご無沙汰で忘れてしまったのかと思いましたよ」と言われたために、紀貫之はその場に咲いていた梅の枝を折って、この和歌を詠み、返答に変えたのだとか。

「前は頻繁に来ていたくせに…」という嫌味に対し、こんな和歌をサラッと返しちゃう紀貫之。
さすがは、当時最高峰の歌人ですね。

その5.伊勢大輔が詠んだ美しい「春」への賛歌


いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな


作者は、伊勢神宮の祭主の娘、伊勢大輔(いせのだいふ)です。
紫式部や清少納言、和泉式部などと並び、女房三十六歌仙に選ばれた有名な女流歌人です。


そんな伊勢大輔の和歌を、分かりやすく現代風にしてみると、こんな感じになります。


古の奈良の都で咲いていた八重桜が、
今日では、九重(宮中)で見事に咲き誇り、
芳しい香りを漂わせているのです



この和歌は、当時ではまだ珍しかった八重桜を奈良から、京の宮中に住まう天皇へと贈られた際、受け取り役を務めた伊勢大輔が、藤原道長に言われて詠んだ和歌なのだそうです。


時の権力者からのフリに即興で応え、こんな美しい和歌を詠んで自分の評価まで上げられる伊勢大輔は、現代風に言えば、かなりのデキ女と言ってもいいでしょうね。

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この記事のまとめ


春をテーマにした有名な和歌を5つご紹介しました。

今回ご紹介した和歌は、すべて「小倉百人一首」に選ばれている有名な和歌です。きっと、詠んだ際は何気ない日常の中だったものもある筈です。それでも後世に残ってしまうような和歌を詠めるというのは、春という季節をより深く理解し、心得ているからこそでしょう。

華やかに己の想いを表現しながらも、それが的確に相手へと伝わるように詠む。当時の人々にとって和歌というのは、自己を表現する優雅なツールだったのでしょうね。


なお、以下の記事では夏をテーマにした和歌について解説しているので、興味があれば一度ご覧になってみて下さいね。

※参照:夏をテーマにした有名な和歌を5つ紹介!